その470 三羽烏 2017.9.7

2017/09/07

ソニーがCD再生機を発売したのは1982年の秋だそうだ。
その頃の漫画に、CDを買って家族に自慢するお父さんが「さて、どっちの面から聴くか。」というのがあった。
当時は価格も高かったそうで、私がCDプレーヤーを買ったのは1986年、大学卒業の時だ。
秋葉原でプレーヤーを買い、プレーヤーだけでは何も聴けないので1枚買ったのは、
ゾルタン・コチシュの演奏するラフマニノフのピアノ協奏曲第3番のCDであった。
それをもう一度聴こうと本棚を探したが、なかなか見つからない。

 

だいたいCDは探している時には見つからない。
作曲家別に大まかに分けて置いているのだが、カップリングの曲に興味があると
そちらの作曲家に分類したりするので、背表紙のタイトルは当てにならない。
ようやく私の最初のCDを探し出して、コチシュ氏の他のCDも見つけた。
やはり最初のCDではコチシュ氏、お若い。顔に若々しいトゲがある。
10年程後のCDでは、ややふっくらされたようなお顔で、かえって体調が心配な感じがしたことを覚えている。
不覚にも、コチシュ氏が昨年亡くなられていたことを今まで知らなかった。
オーケストラがついていけないほど速い1982年録音のラフマニノフのコンチェルト、
鋭いリズムのバルトーク、オーケストラの指揮でも活躍されていた彼が
64歳で亡くなられていたとは、大変に残念だ。

 

かつてコチシュ氏はデジェー・ラーンキ、アンドラーシュ・シフのお二人とともにハンガリーの三羽烏と言われた。
ラーンキ氏は奥様とのデュオで活躍中、シフ氏はバッハはもちろんのこと、シューベルトの演奏でも深いものを聴かせている。
もうお一人、シャンドール・ファルバイ氏を含めてハンガリーの四天王と言われたこともある。
ファルバイ氏はリスト音楽院の院長であったそうで、多くのレッスンを行ったようだ。
ご健在のようで、「ファルバイ氏に師事」という若手ピアニストのプロフィールは多い。

 

CDの登場から35年、「音楽はダウンロードするもの」となったし、本も文庫本ではなく電子書籍の時代になった。
演奏家の一世代とほぼ一致するサイクルなのだろうか。
しかしCDはまだ命脈を保っているし、LPレコードは復活の兆しもある。
60代となった若手実力派の各氏の益々のご活躍を期待したい。